大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和41年(う)893号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

控訴趣意中法令適用の誤の主張について。

論旨は、原判決は、被告人が大阪府知事の許可を受けないで堺市八田寺町四一番地の一、二、一八所在の鉄骨造、外部ラスモルタル塗り、屋根スレート葺マーケット一棟(但し、建築面積八五九、三五平方米、延面積一〇四七、八三平方米、店舗数三四)を、小売商業調整特別措置法三条所定の小売市場とするため、起訴状添付一覧表記載のとおり、昭和三九年四月八日から同年一〇月一七日までの間小売商人である浜寺食品株式会社ほか三三名に、それぞれ貸し付けたものであるという、小売商業調整特別措置法三条一項違反の事実を認めながら、これに併合罪の規定を適用せず、一罪として処断したのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用を誤つたものであるというのである。

よつて案ずるに、小売商業調整特別措置法(以下単に法という)二二条一号によつて処罰せられる法三条一項違反の罪は、政令で指定する市の区域内の建物について、都道府県知事の許可を受けない者が同条所定の小売市場とするため、その建物の全部または一部をその店舗の用に供する小売商に貸し付け、または譲り渡したことによつて成立するのであつて、右の小売市場とは、一つの建物であつて、十以上の小売商(その全部または一部が政令で定める物品(野菜及び生鮮魚介類)を販売する場合に限る)の店舗の用に供されるものをいうことは、同法三条一項に規定するとおりである。ところで法三条一項の立法趣旨は、同法一条に規定する小売商の事業活動の機会を適正に確保し、小売商業の正常な秩序を阻害する要因を除去し、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、同法三条一項所定の小売市場の開設を規制せんとしているものであり、その規制の方法として小売市場の開設そのものを直接許可制にする方法をとらず、政令で指定する市の区域内の建物は、前示の許可を受けた者でなければ、小売市場とするため、店舗として小売商に貸し付けまたは譲り渡してはならないとして、間接に小売市場の乱立を防止せんとしているものと解せられる。そして右の許可は、同法四条所定の許可の申請により、同法五条の許可の基準によつてなされるものであるが、右の許可は、一の建物ごとに行なわれることは、同法三条二項に定められるところであつて、都道府県知事は、同法五条所定の除外事由がないと認めるときは、小売市場開設者に対し当該建物を小売市場開設のために、十以上の小売商に貸し付け、または譲り渡すことを内容とする一個の許可を与えるものであり、個々の貸し付けまたは譲り渡し行為ごとに許可を与えるものではない。従つて右許可の要否は、貸し付け、または譲り渡す小売商の数及び小売商が販売する物品の種類の如何が問題になるのであつて、借り受け、または譲り受ける小売商が何人であるかは、許可の対象となつていないことは、同法四条、八条の規定の解釈上疑のないところである。

このように考えてみると、同法三条一項が禁止している建物の全部または一部をその店舗の用に供する小売商に貸し付け、または譲り渡す行為とは、右の許可のないのにその建物を小売市場とするため十以上の小売商に貸し付け、または譲り渡す行為の一環としての貸し付け、または譲り渡し行為を意味することは明らかである。しそうだとすれば、たとい許可を得ない一個の貸し付け、または譲り渡し行為であつても、それが十以上の小売商に対し貸し付け、または譲り渡して、小売市場を開設しようとする行為の一環であると考えられる限り、同法三条一項に違反することはいうまでもないが、それかといつて本件のように、多数の小売商に貸し付けた場合においても、個々の貸し付け行為が、いずれも無許可市場開設行為の一環をなすものと認められる以上個々の貸し付け行為は、一個の市場開設の目的に結び付けられ、互に密接な関連をもつものであつて、個々の行為を切り離して考え、併合罪の関係にたつ別個独立の違反行為が成立するものとみるのは無理であり、むしろこれらを包括して一罪の違反行為が成立するものが相当である。

この点に関し、所論は、法三条一項の都道府県知事の許可は、建物そのものに対する対物許可と解すべきでなく、小売市場とするため、その建物内の店舗を小売商に貸し付け、または譲り渡す行為を右の許可にかからしめ、無許可による貸渡行為につき罪責を問う趣旨と文理上解釈されるので本条違反の罪は、無許可でその店舗を小売商に貸し付け、または譲り渡すことによつて直ちに成立し、その罪数も、行為の回数ごとに犯罪が成立し、併合罪の関係にたつといわなければならないものとし、同法施行規則四条一項によつて定めた本件許可申請書の様式である同申請書の表題が「小売市場貸付または譲渡許可申請書」となつていることをも理由の一に挙げているので案ずるに、法三条一項の許可が対物許可と解し得ないことは、所論のとおりであるが、しかし、同条項に違反した各無許可貸付行為が、その貸付行為ごとに一罪が成立し、全体として併合罪の関係にたつとの所論は、前段の説示のとおり容易に賛同し難く、また所論の同法施行規則四条一項による許可申請書の様式の如きも、被告人の本件無許可貸付行為が包括一罪であるとの認定に抵触するものでないと考える。

してみれば、被告人の本件違反行為を法三条一項、二二条一号の一罪として処断した原判決は正当であつて、所論のような違法の廉はなく、論旨は理由がない。<後略>(笠松義資 中田勝三 荒石利雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例